武装神姫を中心に、フィギュアレビューや、公式掲示板投稿のSS解説などをしております。

鋼の詩(はがねのうた)4 ~タック~

さて、当方的にちょっとした問題を抱えている四話目は、少し未来のお話。
三話までとはちがい、時系列が少しだけ先の時間軸になっています。

少々問題はあるものの、読み切りと考えれば全然問題ないので
そのまま強行!

平和な街がきな臭くなっていく感じをどうぞ~。

※この物語はオノマトペを多用した作りになっているので、
人によってはわかりにくかったり、ビジュアルイメージがしにくいかもしれません。

※「物語はどーでもいい」という方は、武器コラムだけでも読んでみて下され。

 

【すべてを貫け! ~タック~】

「レイさ~ん、このお店も壁内に移転しましょうよぉ~、城壁の外はやっぱり不便ですぅ~。」
「そう言われても、私は店主じゃないしねぇ…。」
 ある日の朝食時、私の愚痴に困った笑顔を向けるレイさん。
 まぁ無理を言っているのはわかっていますけど…。

「店長に言わせると、『ココの方が街道のお客にお店を見てもらえるから良い』
 とのことなんだけど…。たぶん本音は壁内に安い空き物件がないといった所でしょ。」
「ぶぅ~~~~~~.。何ですかその貧乏くさい理由は~!」
「実際裕福じゃありませんから。」
 レイさんがムッとして口調をキツクします。そしてこう付け加えました。

「そもそもナナちゃんの作業には水が大量に必要でしょ?」
「そりゃぁ まぁ、そうですけど…。」
「だったら余計難しいわね。」

  水場に近い物件はどこも高いのが常識です、それは分かっているつもりですけど…、
壁内への材料の買い付けに行くたびに、逐一門番のチェックを受けるのは結構面倒なのです。
 何より、城壁にドーンと威圧されているような感じが心理的に嫌なんですよねぇ。
 城壁の東側なんで夕方は日が当たらなくなるし!

「ま、我慢しましょ。もともとこのお店が先にあって、城壁の方が後に出来たそうだから。」
「あ、そうなんですか!?」
「先代店長から聞いた話だと、結構古いのよ このお店♡」
「へぇ~~~~~。」
 感心して年季の入った天井を見上げる私。そんな時、変な音が外から聞こえてきました。

 ガシャ ドシャッ!

「な、な、な、何でしょうか!?」
 まだ開店前なので当然お店は開けていません。
 このお店は常に門番がいる東門が比較的近いので、強盗の類ではない…
と思うのですが、やっぱり怖い~~!

「ちょっと不気味ね……、ナナちゃん乳切棒を持ってきて。」
「あ、はい!」
 奥から私の身長くらいの棒を2本持ち出し、一本をレイさんに渡します。

 私たちは表にあるお店の入り口を、恐る恐る開け 外を見ます。
 街道である表の道の脇に、長めのチェインメイルであるホゥバークと
サーコート(ホゥバークの上に着る衣類)を身に着けた兵士さんがひとり血まみれで倒れていました。

 サーコートは所々破れ、本来なら正面に大きく入っているはずの紋章が、
血で判別できないくらいの深手の様子…重症なのは明らかでした。


「ど、ど、どうしましょう?衛兵さんを呼びますか?」
「待って!これはいち早く止血した方が良いみたい。」
 レイさんは私にたくさんの水を沸騰させることと、アルコール度の高いお酒を用意することを要求。
 私は言われた通り裏の小川ではなく、井戸から汲まれた綺麗な水を竈の釜に汲んで火にかけました。
 お酒は私の秘蔵品『ガンガル酒』を持ち出します。さようなら…私の給料一か月分……。

 ホゥバークと鎧下を脱がせてみると、兵士さんの傷の状態がわかりました。
 傷は大体が刺し傷で、一つは腹部を完全に貫通。ひょっとしたら内蔵も損傷しているかもしれません。
 レイさんは次々と傷を消毒。酷い傷は針と糸で縫い、塞(ふさ)いでいきます。
 レイさんより力のある私は、もっぱら包帯にて止血役。
 それにしても簡易とはいえ応急治療も出来るなんて…ホント博識な人ですねぇ。

「具足に拍車もあるし、身なりからするとそこそこの身分よね……従騎士さんってところかしら。」
 ホゥバークなど普通の民兵に買えるものではありませんから当然そうなります。
「サーコートの家紋とかは判らないですか?」
「血まみれでよくわからないわ…、そもそもこの出血量で よくここまで生きて来れたものね…。」

 とにかくすぐさま治癒魔術を使える医術士を呼ぶことにします。
 しかし…医術士は忙しい職業…
早朝だというのに今日の予定はすべて埋まっており、明日になるとの事。
 今日はこのまま安静にしてしのぐことになりました…。

 本当なら壁内の衛兵さんにさっさと引き渡して 面倒ごとを押し付けたいのですけど、
お節介焼きのレイさんがそれを許しませ~ん。



 翌日の夕方に医術士さんが来ると、兵士さんの外傷による傷はほとんどふさがりました。
やっぱり魔法の力はすごいですね~。
 でも、この回復力はお給料の前借みたいなもので、体力自体は逆に奪ってしまうそうです。
その日も兵士さんは目を覚ますことはありませんでした。

 あ!それと、サーコートを洗濯したことで、兵士さんが隣国の従騎士であることもわかりました。
 一応壁内の衛兵さんにも事情を説明しに行きましたが、
従騎士さんは絶対安静で動かすことが出来ないので、
話せるようになってから再び呼ぶ ということで落ち着きました。



 さらに翌日…。やはり従騎士さんは眠ったままです。
 普通なら領主さん側が引き取っても不思議じゃない事態ですが、
目を覚ましたら呼んでくれというのは、ずいぶん扱いがぞんざいですねぇ…。従騎士さんが可愛そう…。

「うちの領主様も冷たいわね…。仲が悪いとはいえ一応同盟国でしょうに…。」
 おなじ事を思ったのか、レイさんがつぶやきます。
「まぁ、以前の武器自慢の競技会の件もありますしねぇ。」
「他種族との諍いが緊迫化している時に、人間同士で争ってどうするのよ…。」
 レイさんはため息をつきます。

 近年のオーク族は、メタトロンも所属する連合同盟の国々次々に侵入し、度々問題になっているのです。

「これ、どう考えても戦争の臭いがしますもんねぇ…やだなぁ!」
「最近は量産武器の注文も多いし、かなりキナ臭いわね。」
「物騒になればなるほど儲かる…私たちの職業も因果な商売ですよね…。」
「まったくね。」
 棚卸しをしながらそんな与太話をしていると、寝室の方からうめき声がしました。
どうやら従騎士さんが目を覚ましたようです。
 私達は寝室へ飛んでいきました。

「うう…………ここは……何処……だ?」
「交易都市メタトロンにある武器屋です。貴方はお店の前で倒れていたのです。」
「……そ…か…、では…領主…殿に……、東のオ…ク共が、進行を開始…たこと…伝えてくれ……。
……我が隊が敗れたことも……。」

「「!!」」

 あぁ…、ある程度想像は出来ていましたが、オマケにとんでもない事を言ってくれました。
 『負けた』なんて情報…きっと重要機密の部類です。
 噂が広がらないように監視とか付いちゃうんじゃ…、ふぇ~~~ん。

「君たちは…武器屋を…や…ているのか……。ひとつ…頼みを聞いて…くれるか…?」
「なんでしょう?」
 レイさんが聞き返します。

「誰でもいい…鋼鉄の…メイルを貫ける…タックを…作ってもらい…たい。」
「鋼で出来たチェインメイルをですか?」
「タックの打ち合いで…私は負けた…。
 敵は…高度な…武器と防具…備えている…、生半可な…武器ではだめだ…。」

 そこまでしゃべると、従騎士さんは再び意識を失います。
 まだまだ回復には時間がかかりそうでした。

「いよいよ私たちの手には負えない事態になってきたわね。
 私は外の衛兵さんを呼んでくるから、ナナちゃんはお店と従騎士さんをお願い。」
「ガッテンです!」

 いろいろと面倒くさい手順があったと思われる一時間後、
 夕暮れ時にレイさんは衛兵とその上官らしき人を連れて戻ってきました。

「では失礼するぞ。」
 身なり的にもかなり偉い軍人さんであると思われる上官の中年男性がヅカヅカと入室し、
従騎士さんのベッド脇に片ひざをつきます。
 そして…。
「ここからは重要機密となる、君たちは席を外してくれたまえ。」

 私たちの家なのに、二人とも寝室から追い払われてしまいました。
 入り口にはしっかり見張りを立て、盗み聞きすらさせたくないようです。
 仕方なく外へ出る私たち。外はもう日が沈むところでした。
 東側のお店は完全に城壁の影にはいっています。

「あ~あ、戦争確定ですかねぇ……。」
 同盟国が攻められたので 当然同盟規約により、この国にも出兵要請が来るはずなのです。

「東国の一部戦線が破られただけなら良いのだけど…。」
 レイさんの漏らした言葉には考えたくない含みが混じっていました。
 もし、東国自体が占拠されることになれば、ここ(メタトロン)が戦場になることも考えられるのです。

「ふぇぇ~~…、最悪の事態だけは起こってほしくないですぅ~。」
 そんな話を小一時間ほどしていると、不意に玄関のドアが開きます。
どうやらお話は終わったみたいですね。

「彼の手当ては君たちがしてくれたらしいな。
あまり仲が良くないとは言え、同盟を結んだ同胞だ。感謝する。」
「いえいえ、人として当然のことをしたまでですよ~。」
 私は内心『だったら早く引き取ってくれれば良いのに…』と思いつつも、自慢のナナスマイルで返します。

「君たちには悪いが、彼はもう少しここで療養させてやってくれ。
もちろん他言無用だ。迷惑料としてコイツを置いていく。」
 そう言って上官さんが巾着を手渡してきました。
中にはラルド金貨が20枚!やった~、治療費の元も取れる~♪ ヽ(´∀`)ノ

「レイさん!レイさん!治療費の心配がなくなりましたよ!」
 大はしゃぎの私に対して、レイさんは東の森を凝視したまま固まっています。
どうしたんだろ?

 レイさんの驚いた様な表情を覗き込むと、その口からポツリと言葉が漏れました。
「なんてことなの……。」

 その言葉に呼応するように衛兵や上官さん達もザワザワしだしました。
 皆が凝視している森の方をみると、沈みかけた西日に照らされた木々から何やら影が点々と……。
 よく見ると現れたそれらの影たちは人!
 まるで生きた死体【リビングデッド】のような歩みでこちらに向かってくるのは大勢の負傷兵でした。

「これは…緊急事態だ!一刻を争うかもしれぬ…城へ戻るぞ!」
「はっ!」
 さすがは軍人さんと言うべき素早い反応です。
 衛兵さんたちは一斉に駆け出し、うち一人は伝令として全速力で門のほうへ消えていきます。

「君たちは武器屋だったな…、彼が嘆願していた武器の強化を、ギルドぐるみで考えてみてくれたまえ。」
 上官さんは私たちにそういってから、部下の後を追いかけていきました。
 それは戦争という災厄が、この国にも降りかかってきた瞬間でした。




 翌日…それはもう大騒ぎです。
 大量の負傷兵はもはや民衆に隠し通すことなどできず、いろんな噂が尾ひれをつけて暴れまわります。
『もう東国はオーク族に攻め落とされ、実効支配されている…』とか、
『ここメタトロンにも進軍中!』とか、
もう何が正しい情報なのかさっぱり見当がつきません。
 公示人のふれ回りもどこまで正確なのやら…。

「街は大騒ぎね…でも、私たちは噂に惑わされず やるべきことをやりましょ! 」
「もちろんです!」

 私たちはお店を臨時休業し、
武具商人ギルドと鍛冶職人(ブラックスミス)ギルド合同の緊急会議に向かいます。

 私は鍛冶職人(ブラックスミス)ギルドに所属してますし、
レイさんも武具商人ギルドの一員ですから、こういった戦争ごとと無関係というわけにはいきません。

 本当はレイさんではなく、店主であるニャンコ店長が出向かなくてはいけないのですけど、
めったにお店にいないのですからしょーがないです。
 っていうか…あの人、今どこにいるの~!?

 こういう緊急時には、壁内の鍛冶屋の中でも一番大きな屋敷を持つ
ヘルムシュミート家のエントランスが、臨時の会議場になります。
 私たちはその大きな屋敷の扉を叩きました。

「おぉ、若い娘っこらの到着じゃ!」
 すでに集まり、用意された椅子に適当に座り 雑談していたギルドメンバーがどよめきます。
 大体が顔見知りですが、それでもどよめくのは無理もありません。
ただでさえ若者は少ない上、女性は私たち二人だけ。注目されないはずがないのです。
 さしずめ枯野原に咲く二輪の花ってところでしょう!

「レイちゃん商売の方はどうじゃ?」
「良い仕入先を見つけたんだが…一口噛まんかい?」

 早速レイさんに人気が集中します。すっかりおっちゃんたちのマドンナですねぇ。

「蕾(つぼみ)っ子の方はよい武器を作れるようになったかのぅ~。」
 ズルッ。
 私はまだ蕾でした…、もう22歳なのに…グスン。

「これこれ、若い女子(おなご)が来たからといってはしゃぐでない!
 面子も大体そろったようじゃから そろそろ始めるとしようかの。」
 この屋敷の主、マルコル=ヘルムシュミートさんがこの場を仕切ります。
 私と同じくドワーフ族なので身長は低いですが、がっちり筋肉質の肉体はまるで戦士のよう…。
 口の周りには、ドワーフ族らしくモジャモジャ髭を蓄え貫禄も十分!
 この町の鍛冶職人(ブラックスミス)ギルドの元締めです。

 ヘルムシュミート家は保守的なドワーフ族としては珍しく、
ドワーフの部落の外に拠点を持った、国外生産を主体とする、武具鍛冶屋の一大勢力でもあります。
 かくいう私も、マルコルさん絡みでここに留まることを決めたクチです。

「東国では戦が本格化しおったようだ、
領主様の命によりわれわれの仕事も軍事体制下へと移行することになる。
そこで課題がいくつかあるわけじゃが、それを今ここで解決させたいと思う。皆、力を貸してはくれまいか?」

「今更何をゆーとるんですか元締ぇ、こっちは元からそのつもりでさぁ!」
「「おおぅ!」」
 メタトロンの皆は基本的に仲が良いので、反対はほぼありません。スムーズに議題へと移ります。


「まずは時間のかかる板金鎧の生産だが…、当然ウチだけでは追いつかぬ。
ガリウスとテオドールの方でも分業してもらいたい。」

 あくまで『お願い』という形ではあるものの、一大事ですからほぼ強制…
そんなことは皆理解しています。

「おぅよ、了解した。」
「う~ん、厳しいが頑張ってみようかの。」
 プレートメイルなどは高度な板金技術を要するので、造れる人も限られます。
二人は何とか了承してくれたみたいですね。

「メイルの作成は宝飾職人の皆々に頼みたい。
 金属輪を作るだけでもかまわぬ。それぞれ力を合わせてくれ。」
 宝飾を生業とする職人さんたちは無言でうなずきました。

「材料等の確保は、卸商人の皆さんにひと働きしてもらおう。
 どこも戦の準備で材料の争奪戦になると思われるが、
 西や南はまだ販路が侵されていないとワシは思とる、
 そこらを中心に駆け回ってもらいたい。
 ワシの実家にも口を利いてくれるよう伝令を出しておこう。」

「ここは商売人の腕の見せ所ですなぁ、ハハハ。」
 商人さんたちは普段と買い付ける品が変わるだけだからなのか、意外に明るい返答。
戦争特需があるからかなぁ。

「武器は…簡単な鋳造品は各鍛冶屋で分担するとして……、
 問題は高度な技術を必要とする鍛造品だな。」
 不意にマルコルさんが私のほうを見ます。

「ナナよ、お前さんがチーフとなって指導してもらいたい。」
「ええ~~~~~~っ!」
 驚きのあまり立ち上がって絶叫しちゃいました。皆 大注目です。

「なんじゃ…自信がないんか?」
「あ、いえ…やらせて下さい ぜひ!」
「「アハハハハハ。」」
 周りからは爆笑の渦。隣のレイさんが赤面して下を向いています。

「静かに!」
 すぐさま皆を静めるマルコルさん。

「お前さんの実力はもう十分通用する。
 第一 ここでドワーフ式の鍛造が出来るのは、ワシとお前さんだけじゃ。」
 マルコルさんはジッと私の目を見ます。

「ワシは鎧職人じゃから武器にまで時間は割(さ)けぬ。
 お前さんが一番適任と判断したんじゃ。特に軍部からタックの強化を頼まれておるようだしな。」
 さすが元締め…、もうそのことを知っているんですねぇ。

「え~っと、それなんですけど…。」
 私は恐る恐る発言します。

「なんじゃ?」
「タックは基本鋳造(鋳型を作り、そこに溶解させた金属を流し込んで形にする製法)です。
 焼入れなどの後加工ではさほど強化につながりません。」
「そこを考えるのが今回のお前さんの仕事じゃ。」
「そこで提案なんですけど……。」
「ほほぅ、言うてみよ。」
 マルコルさんはお髭をナデナデしながら嬉しそうに言います。

「作業分担をもっと極端にしてみてはどうでしょう?
 各個バラバラにやるのではなく、同じ作業をする人同士が集まって、各パートを受け持ち、
 工程を順送りにするやり方を組織化するんです。」
「それは我らドワーフが緊急時にやるあれのことかの?」
「はい!」

 専門的な言い方をすると、工場制手工業というらしいのですが、私にはよくわかりません。
 私たち職人は普段、家内工業というやり方で物を作っています。
 でも 私たちドワーフ族は 緊急事態には部落の皆が一致団結し、
同じ作業をする人同士をあつめ、パートを分担手分けするこのやり方を行います。
 大掛かりですが、安定して高品質な品を効率よく量産する優れた方法です。
 まぁ、ドワーフ族は各々仕事に対するプライドが高く、普段はバラバラに仕事をするんですけどね…。

「ドワーフ式鍛鉄を作れるのは私とマルコルさんだけですから、
 私たち二人は鍛鉄を作成することだけに専念し、
 後の加工は専門の指導者をつけて皆で手分けすればかなり効率よく強化が出来ると思います。」
 周りがザワザワとどよめきます。
 人間の職人さんたちだって それぞれに拘りがあるはずですから、
反対意見も出るでしょう。それは覚悟の上での提案です。

「確かに、ウチには多少指導できるものもおるしな……。よし、やってみせい!」
「はい!」

「武器製造はこのナナに任せてみようと思う。皆はこの娘っこの指示に従ってくれ。」
 相変わらず一同はザワついていますが、皆マルコルさんを信頼しています。
「よし、おやっさんがそう言うならノッてみるか!」
「がんばれよチビッ子~。」
 むぅ!チビは余計ですぅ。


「あの~、私たち販売店は何をすればいいのでしょうか?」
 今度はレイさんが手を上げて質問します。

「そうかニャンコロは居ないんだったな…、
 卸業者とともに出来上がった武具の仕分け、
 軍への納入をメインに 緊急時に民兵が持つ武器の分配もやっとくれ。
 まだ、民兵が武器を持つような事態にはなるまいが、備えておくに越したことはない。」
「分かりました。」


 会議は深夜まで続き、さまざまなことが決まります。
翌日には早速作業に取り掛かることになりました。



 私たちは自分のお店の横に人を集めます。
 城壁の外のため、街道沿いにスペースがいっぱいありますから、
いろんな器具をたくさん置いても問題がないという利点があるのです。

 メタトロンでは マルコルさんのおかげで、折り返し鍛錬法というやり方は浸透して入るものの、
人間の筋力ではどうしてもドワーフ族のそれにはかなわず、鍛鉄の質は落ちます。
 そこで私たちドワーフ族は素材鋼の作成に専念し、タックの加工を他の皆に担当させる手はずです。

 タックは普通 高炉(鉄を完全に溶かすことが出来る高温の炉)を使い鋳造で作られます。
それが安価な最大の理由で、逆に強い武器にするには材質からよくする必要があり、
高炉を使った精製鋼ではどうしても質の向上には限界があるのです。

 私がまず考えたのは、いっそ鋳造を捨て、職人が鍛えた鍛鉄の棒からの削り出しを試みる方法です。
非常に手間が掛かる方法ですが、職人鍛造の剣に匹敵するくらいの強さと粘りを持たせられるはずです。
 時間が掛かるといっても、細い棒状なので普通の剣ほどは掛かりませんしね。
 そしてその遅さを工場制の流れ作業でカバーしようというのが私の狙いなのです。

 削りが主な作業工程となるため、これまでのものより大きいグラインダー(砥石)の設置が欠かせません。
 100サンチを超える円盤状の砥石をペダルで漕いでまわす装置を考え出し、
それをマルコルさんに監修してもらいました。

 これなら人間の職人さんが削りを…、素人さんにはペダルを漕いでグラインダーをまわす役割を分担でき、
職人さんが自分で砥石を回しながら削る必要はないので、職人さんの負担を減らせるというわけです。

 見事OKをもらい工事に着手!
 すぐ裏手に小川があることを利用し、組み立て式の水車式溶鉱炉(水車の力でフイゴを動かす溶鉱炉)
を設置。より良い鉄の抽出の仕方や絶対禁止事項などを新人さんたちに叩き込み、
その鉄を私達ドワーフ族が鍛え、ある程度形になったところで刀身削りと鍔(つば)の追加加工を
人間の職人さんに任せていく…。
という生産ラインを思い描き施設を設置していきます。

 マルコルさんが用意してくれた、グラインダー等を設置するための土木職人さんたちは非常に優秀で、
一日で五基の大型グラインダーを設置し、三日目には全十基が稼動できる状態に仕上げました。流石です!



 作業開始から五日後。
レイさん、そして魔法の力で怪我から回復した従騎士さんが、
その出来上がった即席工場を見回しつぶやきます。

「街道沿いに大型グラインダーがずらっと並ぶと壮観ね。」
「まったくです。」
 始めてみる光景にレイさんたちは関心しきりです。
「麻布の屋根つきですから、大雨でも降らない限り作業を続けられますよ~!」
「たいしたものだ…、君のような小さい子が考えたことは思えない…。」
「小さいは余計ですぅ。」

 こういうのは体の大きさとかは関係ないのですよ!むぅ~。

「後は出来上がる武器の質ね。」
 レイさんが急に職人の目をします。
 私は答えるように一本のタックを手渡しました。
「最初の一本は私が丹精込めて仕上げてみました!」
「ふふふ、厳しく査定するわよ~。」
 レイさんはそう言うと、工場脇の丸太のカカシの前に立ち、タックを両手で構えます。
 カカシには、ぼろぼろのホゥバークとサーコートーが着せてあり、実戦同様です。

「私が着ていた防具だ。まずはこれくらいは突き通してもらわねばな。」
 腕を組みつつ従騎士さんは言いました。
 レイさんが構えたタックを見て一言。
「見た目は良いわね、重量バランスも良好…。」
 そしてタックを後ろに引き、力をグッと溜めます。

「ナナちゃんが仕上げたのだから良いのは当然だけど…、でも…武器は使ってナンボ!」

 ビュゥッ…ドスッ!

 レイさんの電光石火の突きが鎧丸太の胴に刺さります。
その切っ先はメイルの表面を貫くだけでなく、丸太を貫通し、背中側のメイルまでをも突き通しました。
 ヨシッ!狙い通りです。

「コイツはすごい…。表側は当然として、裏面の金属輪まで押し広げ断ち切るとは…。」
 従騎士さんが驚きの表情でカカシの状態を見回します。
「女の私でこれですから、男性の力ならもっといけるはずです。」
 突き刺さったタックを何とか引き抜きながらレイさんが言いました。

「もちろん!私が狙っているのはプレートメイルをも貫通できる強度ですもん!」
 にこやかに胸を張りました。
「なんと!そんなことが可能なのか!?」
「あ、いえ、実戦では滑っちゃって無理だと思います…。あくまで貫通力の話ですよ~。」
「プレートメイルに比べれば、鋼鉄製のチェインメイルなど楽に突き通せるってわけね。」
 私たちの会話を聞いて開いた口が塞がらないという感じの従騎士さん。

「で、どうですか?評価は…。」
「もちろん合格よ!お店でも売りたいくらい。」
「私も良いと思う。貫通力だけでなく、粘り強度もすごいな…簡単には折れなさそうだ。」
 二人からのお墨付きをもらい私は大満足。ガンガン造りますよ~。



 その日の午後から、工場は順次稼動していき、ラインが動き出しました。
 とりあえず必要な分と、予備のストック分さえ仕上がってしまえば、
後は他の武器の製造作業に掛かれますし、その場合でも、この工場はイロイロ機能してくれるはず…。
 我ながらナイスアイデアなのです!

 そしてさらに三日後…。
 従騎士さんたちが、他の負傷兵さんたちと共に故郷へ帰るというので、私たちは見送りに出ます。
 医術士さんのおかげで傷口は完治しているとはいえ、まだ十数日での帰国です。
 よほど故郷が心配なんですね。

「君たちには世話になった。この恩は一生忘れまい。」
「もう帰っちゃうんですか?また戦場へ出ることになるかもしれないのに…。」
「それが私の仕事だということを忘れないでくれたまえ。
 何より私には使えるべき主(ここでは領主という意味ではなく、彼が仕えている騎士のこと)
 守るべき妻子も居る。オーク共に好き勝手はさせられない。」
「そうですか…。」

 私は露骨にしょんぼりした顔をしたらしく、従騎士さんは苦笑しながら頭をナデナデしてきます。
 一方レイさんは私が作り上げた新型タック一振りを手渡すと一言。
「ご武運を…。」
 といって下がります。なんだかカッコイイ別れ方ですねぇ。
 別れをたくさん経験しているからでしょうか? 落ち着き方からして別次元です。

「有難う。では、またいつか無事に会えることを祈って…。」
 キャラバンを形成した一団は、東へ向かって街道を出発します。
 私たちは一行が見えなくなるまで手を振り続けました。
 別れというものは、いつも寂しいモノですね。



【ナナちゃんコラム ~タック~】
※長さや重さの単位は、作中世界のもの になっているので少しわかりづらいかもしれません。

 タック(tuck)は非常に特徴的な形をしています。
さしずめ鍔がついた巨大な針とでも言えば良いでしょうか。
【突き】という攻撃に極端に特化した、ロングソードからの派生刺突剣です。
(長剣{ロングソード}の一種と言い切る本もあります。)

これは金属輪をつなげたチェインメイル/ホゥバークが登場し、
普通の剣では敵を切ることが出来なくなったことからくる、必然的な進化といえます。
 ここに部分的にプレートで覆われたプレートメイルが登場すると、
今度はその隙間を狙って突き刺すようになっていくのです。

 長さはロングソードに準拠する100~130サンチ(cm)前後。
 重量は0.8~1.3キグロ(㎏)。
(本によって重さに結構幅があるのでこのような幅広い表記になりました。)
 鍔は棒鍔タイプが主流です。
 突き刺すときに力が要るためか、柄(グリップ)は長めで両手持ちできるものが多いようですね。

 その役割から、メイル・ピアスィング・ソード(mail-piercimg sword)や
メイルブレーカー(mail breaker)という別名もあります。
 同時期のフランスでは、このタイプの剣はエストック(estoc)と呼ばれ、
皆さんの世界(現代日本)ではこちらの名称のほうがピンと来るかもしれませんね。
 もっとも、最近では英語圏でもエストック(estoc)で通りそうですけど…。

 ある本によるとカナダ(加)ではアストックスペルは同じ(estoc)とかかれ別表記だったり、
(たぶん発音が違うと思われます。)
 スペイン/ポルトガル(西葡)ではエストーケ(estoque)
 ドイツではパンツァーステッチャー(panzer stecher)と呼ばれているようです。
 もっともメイルブレーカーや、パンツァーステッチャーは、
同名で短剣の形のものもある
ので、タックと同じものとしてしまうのは危険ですね。

 また、片手剣ですが、同じような用途を狙ったコリシュマルド(Colichemarde)
というものもありますが、これはちょっと特殊な武器で、
個人の発想から登場した武器でもあり、時代ももっと新しい17~18世紀のものです。
詳しくはオットー・ヴィルヘイム・フォン・ケーニッヒスマルク伯爵という人物を基点に
調べてみてください。
(ケーニッヒスマルクをフランス読みしたものがコリシュマルドなのです。)




【用途と変遷】
  『斬る』という性能を完全に捨て去ったその刀身はまさに太い針。
 刀身の断面は円だったり、菱形だったり、三角形だったり、色々ありますが、
共通するのは砥がれた『刃』と呼べる部分はありません。
(今回私が生産しているのは菱形のタイプです。)

 突くという攻撃は戦場で的確に狙うことは難しく、非常に難易度が高いので、
使いこなすのは骨が折れたことでしょう。
 そこで登場するのが、刀身側を両手持ちして柄で相手を殴りつける
死の一撃呼ばれるMordhauです。
 タックは切ることが出来ないため【突くだけ】と思われがちですが、当然鉄の棍棒とも言えるので、
そのまま刀身で相手を叩いたり、
ブレード側の方を両手持ちし、【即席のメイス】としてつかうこともあるのです。

 コレならば全身を金属プレートで覆った鎧が相手でも、ある程度のダメージが期待できます。
 もっとも それならばもっと重量のある重い剣で叩いた方が良いため、
タックは両手剣などに取って代わられていくのです。


 鎧の質が上がり、また 金属プレートを全身に多用した鎧も登場するにつれ、
このタイプの武器は廃れていきますが、ポーランドやロシアなど東ヨーロッパでは、
十七世紀ごろになってもチェインメイルや、部分的なプレートメイルが使用され続けたため、
消えることなく使われ続け、 突き攻撃でプレートメイルを叩くことから、
ノッカー(konchar)とも呼ばれたようです。
 時代的にはそぐわなくなっているはずなんですが、これは特殊な例ですね。

 それだけチェインメイルというものは防具界の革命品だったことが伺えます。
切れないのならその金属輪の隙間を突き刺せば…、そう考えた者がいたのでしょう。
 潔く斬ることをあきらめこういう突きに特化した武器を造る大胆さには驚かされます。

 刀身が細いのでレイピアと混同しそうになりますが、
登場時代は13~14世紀頃からとこちらが先であり、
作りも用途もまったく違います。


 しかし15,6世紀頃には中世本場の戦場でも混乱し、
大型のレイピアとタックを混同して呼んでいるケースも出てきます。
 当時の人たちが混同させているくらいなので、現在の研究者の混乱振りもお察し下さい…。
明確な分類というものは、それほど困難なものなのです。
 ロングソードの派生種という点では、レイピアとは親戚関係ともいえますね。

 また、鋳造で簡単に安く大量生産できるというのもこの武器の大きな利点です。
劇中ではその真逆へ行くことをしていますが、
これはお話を面白くするための嘘なので真に受けないで下さい。

 騎士たちは剣で斬ることを好み、剣で突くことを嫌ったという研究者さんもいますが、
通常のロングソードですら先端が尖り 突きに適した形へと変化していきますから、
結局背に腹はかえられなかったのでしょう。 タックの存在がそれを証明しています。



【ナナちゃんコラム ~医術士~】
 劇中に登場する医術士とは、
私たちの世界での治癒魔法と、切開/摘出手術、解毒すべてを行える、
自治体の資格許可が必要な専門職です。

 よって私たちの世界に【医者と言う職業はありません。
 簡単な傷は自分たちで治すのが当たり前ですし、
大きな傷は医術士の薬と治癒魔法で直すのが一般的です。

 医術士による治療費は非常に高いので、よほどの重症でない限り頼むことはありませんが
今回のようなケースでは必要ですね。

 治癒魔法はあくまでも、体組織の活性化によって回復させるものなので、
異物混入した場合などは、人の手による切開摘出手術が必要です。
また、毒物も魔法で取り除くことは困難なので、こちらは錬金術等の薬学で直すことが多いです。
 このいずれも行える非常に高度な医療系職業が医術士というわけです。
 その高度さゆえに資格取得人数も少なく、この資格を持っている人は、
メタトロンのような比較的大きな田舎町でも一人か二人居れば良いと言ったところでしょう。




【あとがき】
この話は本来もっと後にやるべきもので、四話目に持ってくるような話ではないのですが、
「後々戦争編やりたいけど…日常からどうやって移行しようか?」
「じゃぁとりあえずテスト的に書いてみるか」

と軽い気分で書いちゃったものです。

もともとこのお話、時系列は曖昧にして、順番はいくらでも入れ替えられる
というシステムを狙っていたんですが、一つ困ったことがありました。
登場人物が、レギュラー化(再登場)すると、
場合によってはそのキャラクターが説明もなしに出てくることになる。

という欠点。

当初はレギュラーキャラなんかメインの二人(ナナちゃんとレイさん)だけでいいだろ!
と思っていてあまり深く考えてませんでした…
話数が増える度にそうもいかくなっちゃったのですよ…。(^ ^;)

そう!今回登場しているマルコルさんは、後々何度も登場するので、
この話を奥に沈めてしまうわけにはいかなくなってしまったのです!(無計画性丸出し…)

いずれは初マルコルさん用のエピソードを作って何とか解消してみたいと思っています。


模型がいじれる季節になったので、次回は144物となります。


でわでわ(^ ^)ノシ
スポンサーサイト

テーマ : ブログ日記
ジャンル : ブログ

2015-05-08 : 鋼の詩(はがねのうた) : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

MITAKEN0

Author:MITAKEN0
F井県E市に生息中のキモヲタ。

好物は武装神姫、トランスフォーマー、LEGO、萌系フィギュア。
神姫NETの公式SS板でワンユニット師だった経歴を持つ。
無類の巨乳好き♡

なお、当ブログの映像、画像、文章等の
無断転載はご遠慮くださいな~。

訪問者数

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR